活動報告 障害者の居場所づくり事業 ケース1

JAJAマガジン

ジャマイカには障害を持つ人たちの受け皿がほとんどなく、重い障害を持つ人たちは人生のほとんどの時間を自宅や入所施設で過ごすことが少なくありません。NPO法人LINK UP JAJAは、ジャマイカで障害を持つ子どもや大人の社会参画の機会を増やすべく「障害者の居場所づくり」に取り組んでいます。

2021年1月から半年過ごした前回の滞在では、障害を持つ人たちが地域でどのように暮らしているのか調査するため、家庭訪問を行いました。2022年1月から3カ月過ごす予定の今回の滞在では、家庭訪問で出会った障害を持つ人たちをフォローアップし、さらなる活動展開のために彼らとの繋がりを深めることを目的として活動しています。

ケース1 前回の家庭訪問で出会ったケリーシアちゃんと父

家庭訪問を通して出会ったケリーシアちゃん。出会った当初、身体障害を持つケリーシアちゃんは車椅子等の補助器具を何も持たず、お父さんにだっこされるかベッドに寝転んでいるかしていました。5歳になるケリーシアちゃんにはっきりとした発語はありませんが、こちらの言葉がけに満面の笑みを返してくれ、その愛苦しさにたちまち魅了されました。

 ケリーシアちゃんの父グリーンさんはシングルファーザーです。フルタイムの仕事には就いていませんが、その時恵まれた仕事に一生懸命取り組んでおられます。ジャマイカではグリーンさんのように短期的な仕事を繋いで生きている人たちがたくさんいます。正規雇用であったとしても収入が十分ではなく、サブビジネスを掛け持ちしている人がほとんどです。ジャマイカで生活するのに十分なお金を稼ぐのは容易ではありません。

 ケリーシアちゃんに出会った日「彼女の障害は何ですか?」と聞くと、グリーンさんは「分からない」と答えました。お金がないため医師による診断(アセスメント)を受けておらず、障害名が分からなかったのです。アセスメントはあらゆる公的支援を受けるのに必ず必要な書類です。5歳になるケリーシアちゃんは本来今年度から学校に通う年齢ですが、アセスメントがなければ養護学校への入学を申し込むことができません。その旨をグリーンさんに説明し、父娘と共に管轄省庁へ出向きました。Ministry of Labour and Social Security(労働・社会保障省)という省庁で、生活困窮者の生活援助や障害者福祉を担う政府機関です。

 ケリーシアちゃんは車椅子やバギー等の器具を持っておらず、グリーンさんは外出の際に娘を抱えて移動していました。父は障害のある娘をデイケアに預けるのは難しいと考え、どうしても必要な時は子守を雇います。シングルファーザーであるグリーンさんに毎日子守を雇う余裕はなく、建設現場などの職場に娘を連れて行く場合がほとんどです。父の努力の甲斐あって、栄養状態の良いケリーシアちゃん。成長と共に体重も増えており、彼女を抱える負担からグリーンさんはひどい腰痛になっていました。

それでも娘のためにタクシーをチャーターして省庁にやって来たグリーンさん。タクシー代を捻出するのも簡単ではなかったはずです。1時間以上遅れてきたグリーンさんにガミガミ怒る私に、グリーンさんも「ひどい腰痛で娘と移動するのは大変だから仕方ないんだ!」と反撃し、省庁前で一戦を交えました。多少のイザコザを引きずらずに付き合いができるのはジャマイカの良い所で、オフィスに通される頃にはお互い落ち着き、「チーム・グリーン」としての目的に集中していました。

省庁のオフィスでは、行政との交渉経験があまりないグリーンさんに代わって、ケリーシアちゃんの置かれる状況を説明し、アセスメントを受ける費用補助を申請したいと伝えました。当初「アセスメントを自費で受けてからその他の支援を申請するように」と担当職員に突き返されましたが、日本でも行政が窓口で支援の申請を断るのはよくある話ですから、これは想定範囲内です。

支援を断られて困った顔のお父さんと愛苦しいケリーシアちゃんを振り返りながら「そのアセスメントを受ける費用が無いからこうしてお願いへ来ているのです。アセスメントを受けることが出来なければ、ケリーシアちゃんは学校に通うことすらできません。ジャマイカでは全ての子供に教育機会を提供することを目的としているはずです。ケリーシアちゃんの未来のために、どうか支援をお願いします」と懇願しました。事前にジャマイカ障害者協会に問い合わせ、アセスメント費用が出せない場合は省庁から費用補助が受けられることを確認していたので、何としてもその確約を取り付ける覚悟でした。

するとその女性職員はケリーシアちゃんを一瞥し「こんな可愛い子がねぇ・・・」と言って、ふぅっと一息つきました。(お、これは良い手ごたえ・・・)と思った矢先、その職員は「分かりました。ではこのフォームに名前と住所を・・・」と申請書類を渡してくれたのです・・・!(最初から出してくれたらいいのに~)と言いたいところを我慢して「ありがとうございます!!」と感謝の意を表します。良い悪いは別として、人脈が全てと言っても過言ではないジャマイカで行政と喧嘩してしまっては、受けられるサービスも受けられなくなってしまうかもしれません。費用補助が受けられると分かったグリーンさんは安堵の表情を浮かべ、父に抱かれるケリーシアちゃんはきょとんとしていました。

省庁での手続きの数か月後、日本に帰国していた私はグリーンさんから電話をもらい「アセスメントを無事受けられた」と報告を受けました。さらにケリーシアちゃんは無償で車椅子をもらったそうです。これは棚ぼたでした。

今回ジャマイカに戻ってきて分かったことは、グリーンさんがその後単発的な資金援助を受けたり、ケリーシアちゃんがタブレットを寄贈されたりするなど、親子が行政から継続的な支援を受けているということです。担当した女性職員が彼らのケースマネージャーになり、自分の仕事の枠を超えて手続きしてくれたようです。

「何のために税金を払っているのか分からない。政府は泥棒だ!」とたくさんの人が憤る社会で、グリーンさんとケリーシアちゃんがここまでの援助を受けられたことは極めて稀なケースではないかと想像します。一生懸命働いてくれたケースマネージャーに感謝の意を述べるべく、近日省庁を訪問する予定です。行政とは言え、事を動かすのはあくまで人。良いコネクションは大切に繋ぎ、育てていかなくてはいけません。

 ジャマイカでは社会福祉が十分整っているとは言えない現状がありますが、ケリーシアちゃん親子への支援を通して、障害児・者や生活困窮者を支援する制度が存在し、何らかの形で機能していることが分かりました。しかしながら、市民が制度について知らされていない、支援を断られたなどの理由から制度を活用できないことも多く、市民の福祉へのアクセスは薄いと感じます。ケリーシアちゃんのケースマネージャーのように親身になって働いてくれる行政職員と出会えるか、これは運もあるでしょう。ジャマイカ政府はより多くの市民が既存の制度を使えるよう、広報活動や窓口での支援に力を入れるべきです。NPO法人LINK UP JAJAとしては「ここでこんな支援が受けられますよ!」とジャマイカ市民の皆さんに情報提供し、グリーンさんのケースのように「行政支援を受けるための支援活動」を広げていきます。

 ケリーシアちゃんへの支援はこれからです。ジャマイカでは、障害のある子もない子も共に受け入れるインクルーシブ教育は実現していません。障害がない子供でも、経済的困難などの理由から就学できていない現実があります。身体障害があり排せつや食事の介助が必要なケリーシアちゃんは、支援学校にさえ受け入れてもらえるかどうか分かりません。ひとまずは、ケリーシアちゃんの支援学校就学を目指して支援していきます。

(活動報告 障害者の居場所づくり事業 ケース2に続く)

活動報告 NPO法人LINK UP JAJA代表 永村夏美