伝説のジャマイカ隊員西田さんに聞くvol.3

前回は西田さんと一緒にオリンピックを目指して頑張ってきたゲットーの子供たちや、やんちゃなダニエルが大人になるまでのお話を聞いてきました。第3回、最後となる今回は、コロナ禍の西田ジムや2020年帰国後に日本で開いた体操教室についてお話をお伺いしていきます。

vol.2はこちらから

  <目次>

1、地元で大人気の体操ジムに

2、コロナ禍の西田ジム

3、日本の子供たちとジャマイカの子供たち

4、これからのジャマイカ支援について

5、みんなに伝えたいジャマイカのいいところ

1、地元で大人気の体操ジムに

萌

西田ジムを2008年に開いて12年。帰国直前の西田ジムはどのような状況だったのでしょうか?

キングストンに大きいところと小さいところとジムが2つあって。モンテゴベイに1つ。メイペンとマンデビルっていう隣同士なんですけど、そこを一括りとしてもう1つ。

4つやっていて、会員さんが全部合わせて700、800ぐらいいたんですよ。先生も30人ぐらいいました。それぞれのジムで、収益も上がっているような状況で、もう大丈夫な感じはしていたんですよね。僕が帰っても大丈夫っていう。行けるところまで行ったなということで、帰国したのが2019年12月です。まさにコロナが中国ででだして、世界がなんかへんなんでだしたよ。って言っているときに僕が帰ってきたんですよ。

その時はまぁもう大丈夫やな。って感じがしていて。そう思っていたら2020年コロナきて、ジャマイカに入ってきたのが2020年の3月ですよ。

首都キングストンにある西田ジム

2、コロナ禍の西田ジム

萌

コロナ禍のジャマイカ。西田ジムはどんな状況だったんですか?

世界中と同じようにコロナがふわーんと広がって、学校が閉まったのが3月。コロナが入ってきて2週間ぐらいで、全部締まったんですよ。対応早いなって思いました。全部閉まって、もちろんうちも閉めて、はしょると、先生の数が半分以下になりました。生徒の数は7,800から100ぐらいまでガーンと落ちて、その状況がね2020年まるまる続きましたね。

コロナが始まって、仕事してもらっている先生たちの仕事がなくなって。3ヶ月ぐらい頑張って仕送りじゃないですけど、ちょっとこれで食いつないでくれっていうのをずっとやってたんですよ。僕の給料をそこで全部止めて。なんとかそこで食いつないでもらおうと思って。

でも1ヶ月2か月やったぐらいで、もうこれすぐ終わらんなってなったので、申し訳ないけど、来月で(仕送りが)終わるから次の仕事探してくれ。ってなりました。ほとんどのコーチは他の仕事をしているか、仕事なしかちょっと分からないんですけど。責任者をやっていた子たちは、それぞれのジムをやっていて。キングストンのジム6人か7人でやっているのかな。それでも半分になりましたね。

ゲットーボーイズ
萌

全世界共通ですけど、かなり厳しい状況ですね。今後もジャマイカの体操ともかかわっていかれるんですか?

もちろん。まだオーナーという立場を残しているので。今も毎日コーチたちと話をしてますよ。連絡が来るので。

萌

最終的にはジャマイカの方へ引き継がれるんですか?

どうですかね。まだそこまで考えてないんですよね。今の形だと何歳になってもできるので。家で連絡とるだけなのでね。その時の状況によるんじゃないですかね。譲ってもいいと思う子がいれば、その時に自分が金銭的に困窮していなければ、あげるよって言ってもいいし。それはその時次第じゃないですかね

3、日本の子供たちとジャマイカの子供たち

萌

日本でも体操教室を開かれていると伺いました。日本の子供に教えるのとジャマイカの子供に教えるのに違いはありますか?

そうですね。ジャマイカの子の方が喜怒哀楽の素直な子が多いですね。日本はシャイで、ダメージをすぐに受けちゃう子がすごく多い気がしますね。みんなに笑われたらすぐに泣いちゃう子とか、失敗するのがものすごく嫌で、挑戦できない子とかは結構いますね。ジャマイカはその辺は子供に限らず大人も、あっけらかんとしているとか、割と素直な子が多いですかね。喜怒哀楽が素直です。

もちろんジャマイカにもいろんな子がいるので、もちろん恥ずかしがりやの子もいますし、日本人よりもシャイな子もいますし。全体としてこういう子が多いという話でいうと、ケラケラ笑って、怒られてもけろっとしている子が多いんじゃないかなと思います。

練習の様子

4、これからのジャマイカ支援について

萌

これまで西田さんは体操という分野でジャマイカで尽力して、ゲットーの子供たちとも一緒にチャレンジし続けてきました。ジャマイカの格差社会や、貧困の課題に対して、外国人ができることって何だと思われますか?

難しいな。子供がちょっということ聞くぐらいですかね。海外から来たっていったら信頼されるぐらいじゃないですかね。別に外の人だろうが、中の人だろうが、ある程度の財力と行動力がないと何もできないと思います。逆にジャマイカの人と財力があって行動力があればガンガンなんでもできると思いますしね。外国人だからできる。そこにそんなに差は見えないですね。金を持っているかどうかと行動力があるかどうかじゃないですか。教育の分野でいうと、自分の手が届く範囲の子供たちの人生とか価値観を変えることができてそれはすごく大事なことだと思っています。

協力隊が行って、2年間で何ができるんだという話があるじゃないですか。2年間頑張ったけど、同僚が全く変わらなかったとか、2年間頑張って育てたカウンタパートがやめたとかあるじゃないですか。教育分野でいうと子供たちは自分のことを先生として見ていて、先生って子供たちのあこがれの的だったり、影響を与えられるポジションの人じゃないですか。そういう意味でいえば協力隊一人でできることってすごくあると思いますね。

2回目のインターナショナル大会後に地元のテレビへ出演

5、みんなに伝えたいジャマイカのいいところ

萌

最後にジャマイカの好きなところと好きなパトワ語を教えてください。

いい意味で気を使いすぎないところですね。easyGoingなところです。バス停とかでおじちゃんおばちゃん普通にしゃべりかけてきますし、しゃべりかけても普通に返してくれる、普通に世間話できるんですよ。日本でそれやったら無視されますからね。

バスに乗っていても「ちょっとここで止まって。」って言えば止まってくれるんじゃないですか途上国って。それ僕日本でやっちゃって。「いや。だめですよ。」って言われました。融通利かんというか。そういうのがジャマイカだとeasygoingで、失敗しても許されるところもありますし。そういういい意味で緩いところはストレスたまりにくしいし、いいところだと思いますね。

パトワ語のIrieって言葉が好きですね。うちの娘の名前になっているんですけど。“Everything will be all right”という意味があって、“すべてのことが上手くいきますよ”みたいな。ポジティブで、その言葉が好きですねうちのジムのセキュリティーさんが毎日言っていますね。挨拶みたいに。

萌

“Irie”ジャマイカらしさ満載の素敵な言葉ですね。

お忙しいなかインタビューのお時間を頂きありがとうございました。

<筆者あとがき>

今回西田さんとお話をしていて、ジャマイカ人に、体操に、ゲットーの子供たちに体当たりで突き進んできた方なんだと感じました。協力隊員は途上国へ派遣されて、そこで本当の意味の“草の根”レベルで、現地の同僚や住民、農家さんたちと活動していきます。現地の方と同じ立場で会話をしたいのに、ゲスト扱いされてしまったり、一緒に活動をする同僚がとても偉そうに接しているせいか農家さんが委縮してまったり。逆に肌の白いチャイニーズがやってきたと馬鹿にされてしまうこともあります。

想像しているよりもはるかに難しい草の根レベルの体当たりを実現してきた西田さんのお話は、とても刺激的なものばかりでした。私たちLINKUPJAJAも1人ひとりと向き合って活動を続けて参ります。

伝説のジャマイカ隊員西田さんに聞く!vol.2

前回は、2004年に西田さんがジャマイカへ初めて渡った頃のお話や、隊員あるあるの遅刻の話、ジャマイカへ残った経緯などを伺いました。第2回となる今回はジャマイカへ残るきっかけとなったジャマイカの子供たちと、西田さんのこれからについてお話をお伺いしていきます。

vol.1はこちらから

<目次>

1、ゲットーボーイズ特訓の日々

2、超わんぱくダニエル君のいま

3、働いてお給料をもらうということ

4、ジャマイカで感じる格差の問題

1、ゲットーボーイズ特訓の日々

萌

仲良くなったゲットーの子供たちと話して、実際にゲットーへ行かれてジャマイカに残る決心をされたんですよね。外からジムで体操教室を見ているほど体操に興味があった子供たち。実際にジムで練習できるようになってからは、やる気がすごかったのではないでしょうか?

自信を持って「やる気がありました!」とは正直言えないんですよ。

人間なんで。毎日4時間5時間も色々と先生に言われたらやる気なくすんです。もうやりたないってなるじゃないですか。だけど僕は、ゲットーの子供たちをオリンピックに連れて行こうということで、どうせなら世界で活躍できるような選手にできたらそれは素晴らしいことだなって、どうせならオリンピック目指そうって、最初12,13人集めたんですよ。途中でやめる子いっぱいいるやろなとおもって、12、3人集めて、半分残ったらそれでも団体組めるのでね。

体操の団体って6人やったので、12,3人集めて半分残って団体目指そうってやってみたらそう甘いものでもなくて。結局、最終的には4人残ったんですよ。なので、4人+普通にゲットーとかじゃない子も1人残って、結局5人ぐらい残ったんですけど、選手としては。その子らはやめなかったので、やる気はあったんじゃないですかね。他の子がやっぱり辛い練習で練習来なくなりましたから。

萌

毎日4、5時間も練習されていたんですか?

やってましたね。毎日やってました。祝日とか10時間ぐらいやってましたよね。朝から晩まで。

萌

どんな練習をされるんですか?

筋トレっていわゆる腕立て伏せとか腹筋とかそういうイメージあると思うんですけど、体操の基本の技を繰り返すのもコンディショニング(筋トレ)に入ったりするんですよ。鉄棒でいったら車輪であるとか。基本の技を反復してやる。基本をとにかく子供の頃に叩き込むというのが1つですね。

あとはトランポリンとか使って、トランポリンって結構子供でも跳ねるので、難しい技って覚えやすいんですよ。しかも着地も柔らかいので、安全なんです。空中感覚っていうんですけど、それも叩き込むというのが、シニアになったときに勝手に上手になるというセオリーがあって、それを時間かけてやっていましたね。

萌

毎日4、5時間。祝日は10時間の練習についてくる子供たちはすごい根性ですね。尊敬してしまいます。

ついてこない子もいたし、ついてきたくない子も、無理やり送り迎えしていましたから毎日。隠れてて、トイレからでてこない子とかもいましたからね。親に頼んで「連れてこい」って言って。これをやっておいたらいいことあるよっていうのは、ことあるごとにしてたんですけどね。なんのためにやらされているか分からなかったらほんまにやってられないと思うので。いまになって話してみると、やっておいてよかったっていう子が多いですね。

ゲットーボーイズ

萌

最後に残った4人は今も体操を続けられているんですか?

今2人はうちの教室で先生してて、1人はちょっとフラフラしちゃっているんですけど、1人はフィットネスで先生したり、モデルみたいな。ダンスを主に仕事としています。あとオリジナルで靴を作ったりもしてますね。

2、超わんぱくダニエル君のいま

萌

何かを一生懸命頑張った経験は、直接的ではなくても大人になってから生きていく力になりますよね。その4人の子供たちのなかでも特に印象に残っている子はいますか?

テレビにも出てますけど、ダニエル君はよくやってくれたと思います。まぁ素行悪かったんですよ。もう1人ジョバーニっていう悪い子がいて、その子がさっき言ったちょっとフラフラしている子です。

ジョバーニとダニエルが一番最初に捕まえた2人なんですよ。こいつらセンスあるなというので、最初に声をかけた2人。そこから10何人増えて、4人までなったんですけど、そこまで残った2人です。

とにかく物壊すわ。こっちが親切で用意してやった飯、野菜とか頑張っていれてたのに、ポイってこっそり捨ててたりとかね。笑

ほんとに。「お腹減って練習できへん」とかいうから、食い物だしたってるのにわざと嫌いなもの捨ててくるんですよ。とにかく素行悪かった。中学校の時とか生意気ですよね。僕より背高くなるじゃないですか。反抗期なるし。分かるんですよ。分かるんですけど、まぁこっちからしたらこんなに面倒みたっているのに、なんやその態度はっていう感じだったのに、、、

立派に彼も大人になりましたね。

みんなでお昼ごはん

萌

ダニエル君、今は西田ジムで先生をやられているんですよね?

そうですね。今は先生やってくれてるし、まぁテレビとか来て、彼もインタビューを受けるじゃないですか。「ミスター西田がやってくれたことはどう思う?」って聞かれたら、まぁいいこと言うんですよ。「彼のおかげで自分の人生は更生されて、今の人生は彼がいなかったらなかった。」とか。もうええこというなこいつって。

いわゆるゲットーにいて、体操やってなかったらこいつ何しとったんやろという子が、うちのジムで立派に育ってくれて、立派にコーチしてくれているのは素晴らしいことですね。嬉しいです。そんな風に言ってくれるのはやったかいあるなって思うし。 結果、目標にしていたオリンピックには全く届かなかったんです。世界選手権までいったけど、世界選手権で結果だしたかといわれると、だしてないし。

どれだけ大きなことをできたかっていうと難しいところはあるんですけど、人1人、人生変わったって、西田先生のおかげで変わったって言われたらまぁ嬉しいですよね。ダニエルがね、印象に残っているというか。現在進行形でこれからどんな感じで頑張ってくれるのかって楽しみにみています。

3、働いてお給料をもらうということ

萌

ダニエル君のこれからも楽しみですね。悪さばかりしていたという彼の素行が良くなるきっかけはあったのでしょうか?

きっかけは、先生になったことですね。

高校卒業したあと、まだフラフラしていて態度もよくなかったので思い付きで1回他のところで働いてこいって言ったんですよ。他のところで最低半年働いてこい。それでそのあとにうちで先生やればって。

で、ペイントの仕事している小さい会社でお手伝いみたいな、日給1000円の仕事を始めたんです。それでボスからむちゃくちゃ言われて、「やってられるか!」っていうのを半年やってからうちにきたんです。半年ちゃんとやりましたね。

どんだけ「ここ(西田ジム)ええ!」って思ったかと思うんですよ。なるべくコーチたちには僕が見てへんとこでもよくやってほしいなって思うので、基本的には命令口調とか言わないんですよ。ただ減給もしますけどね、ボーナスもあげるし。そういうやり方をしているので、かなり居心地よかっただろうし。やっぱり体操はダニエル自身がよく知っているフェーズ(場所)じゃないですか。技術に対する知識で言ったらほかのコーチたちよりもはるかに持っているので、居心地もよかったと思います。自給500円ぐらいがスタートなので、たった2時間教えるだけで、その仕事の日給もらえちゃいますからね。

ただ1日中教えられるわけじゃないので、もらえる額としていきなり増えるかっていうとそんなことはないんです。ただペイントの仕事と比べれば、短い時間でちゃんとともらえるので、すごく良かったと思うんですよね。それでちょっと感謝するようになったんじゃないかと思います。悪いところを知ってから来たから。

ほんと変わったのをまじまじと見たのは彼がうちで働き始めてからですね。

コーチとして西田ジムで働くダニエル君

4、ジャマイカで感じる格差の問題

萌

1日に怒られながら働いてもらう1000円と、好きな体操を2時間教えてもらえる1000円だとモチベーションも全然変わってきますよね。究極の格差社会であるともいわれるジャマイカ。ゲットーのようなトタンでできた家かかコンクリート造りかなどの差もあると思うのですが、実際に格差を感じるのはどんな時ですか?

人にもよりますけど、お金持ちの子供の方がちゃんと教育を受けさせてもらっていますよね。ほったらかしじゃないです。ゲットーの子はほったらかしで、ワイルドな子が非常に多いですね。礼儀なってないし、素行悪いというか、良い言い方でいうとやんちゃっていうんですかね。

家とかでは、順番守るとかしてたら食べ物なくなるんだと思うんですよ。おもちゃとかも取り合いだと思うんです。親もそこで順番ちゃんと守りなさい。とか言ってないと思うんですよ。これも一例であって全部がというわけじゃないんですけど、僕が見てきた経験でいうとそういうところが多いですね。

子供泣いてるけど、ほったらかしみたいな。どっちが悪いかをちゃんと見定めもせずに「お前ら!」ってまとめて怒っているような。理不尽極まりない環境が繰り広げられてると思うんです。そういう中で育つとお行儀よくはならないですよね。

お金持ちの子はそうじゃない。ものはあるし、習い事へ行かせてもらってるし。やっぱり、学力も高いですしね。私立の学校と公立の学校全然違いますから。教育の質違いますね。校舎のきれいさとか全然違いますよ。公立の子の学校はゲットーの中なので、結構ボロボロやしエアコンとかもちろんついてないし。

もちろん中にはゲットーから来ていてもしっかり勉強できる子もいるんですけど、やっぱりまれでしたよね。